司法制度改革審議会は19996月に内閣に設置された。以後2年にわたる審議を経て2001612日に意見書を提出した。その意見書は、一つには国民の期待に応える司法制度について、二つには司法制度を支える法曹の在り方について、三つには国民の司法参加について提言している。なかでも前記意見書が最も重視したのは、刑事訴訟手続に新たに国民が参加する制度すなわち裁判員制度を採用することであった。

その後8年の準備期間を経て、2009521日、現在の裁判員制度が施行された。これは刑事事件のうち法定刑に死刑ないし無期懲役が含まれるような重大事件に限り裁判員裁判の対象とするものである。そこでは一般市民6人が裁判員となり、これに3人の裁判官が加わって9人で構成される裁判体が刑事裁判を担当するものである。

裁判員制度が施行されてから、現在まで9年が経過した。今では市民の間で裁判員制度に対する関心が薄れてきているようである。また対象が重大刑事事件であることから、裁判を担当する裁判員とって大きな身心の負担になっていることが問題になっている。そのことの反映であろうか、裁判員選任手続期日に裁判所に呼び出された裁判員候補者のうちで無断欠席する者の割合が年々増加してきており、2017年には無断欠席者が3分の1に達したという最高裁判所の調査結果がある。これについては最高裁判所も危機感を抱いているとのことである。

このような現状から考えるに、刑事裁判における裁判員制度だけではなく、むしろ民事裁判に裁判員制度を採用することの方が、国民の司法参加の制度としてより容易であり、かつ実効性があるのではなかろうか。つまり行政機関を被告として訴訟を提起する行政訴訟及び国又は公共団体を被告とする国家賠償請求訴訟に裁判員制度を採用するのである。司法制度改革審議会意見書が提出される前の時点では、このような提案もいくつかなされていたのである。例えば、中村敦夫参議院議員は、現代人文社からのインタビューにおいて 刑事裁判よりも先に行政訴訟の方に国民参加の制度としての陪審制を導入すべきであり、それによって行政の運用が市民の期待に合致する方向で改善されるであろうと述べている(『月刊司法改革』20011月号)。(S.e)